Written by ikemiya。

【乙一】小説の新刊が二か月連続で出版されたので読んでみた、その1

読書

どうも、僕です。
読んだ書物の感想をダラダラ書いているので参考にしていただけると幸いです。

乙一はとてもマルチな活動をしている作家さんです。
その特殊な活動内容の副作用か、小説新刊があまり発表されません。

しかしこの度、非常に珍しいことに二カ月連続で新刊が発売されました。
この二冊はとある企画が元になっており、姉妹作なのだそうです。

そこで今回は、先に発売された『サマーゴースト』を読んだ感想を書いてみようと思います。

『死』を軸に展開される物語

不健全な青春群像劇のあらすじ

友也とあおいと涼はとある自殺サイトで知り合った自殺志願者たちで、3人はそれぞれの理由で死ぬことを希望していた。しかし、未知の体験である死に恐怖を抱いており、その感情を紛らわす術を探していた。
そんなある日、友也は特定の場所で花火をすると現れるという幽霊『サマーゴースト』の噂を耳にする。
3人は死がどういうものか確かめるため、『サマーゴースト』に会いに行く……というお話です。

若くして『死』と向き合う登場人物たち

生きることに無気力な少年、友也

友也はこの物語の主人公です。
学校の成績は優秀で先生たちから信頼も厚く、一見なんの不自由もない生活を送っているように見えます。
しかし、その人生は母親に支配されており、「私が生まなかったらあなたは存在していないのよ、だから私に感謝しなさい」という言葉で縛り付けられています。
趣味である絵を描く自由すら許されず、自殺することで自分の人生が母親のものではない証明になると考えています。

いじめの逃避手段として自殺を選んだ少女、あおい

あおいは学校でいじめを受けています。物語の舞台は夏休みの間に進行するので細かい描写はありませんが、彼女に世の中はクソだと認識させるほどひどいものだったようです。
友也や涼と話しているときは普通に見えますが、あまり要領が良いわけではないようで本人もそのことを気にしている節があります。
一応、先生や家族にいじめのことを相談したようですが改善が見られなかったため、世の中に絶望し自殺を意識するようになります。

充実した人生から一転した少年、涼

涼は整った外見をしており活発な性格で、学校ではバスケ部に所属しており2人とは対照的に人生を楽しんでいました。
しかし、重い病気を患ってしまい、突然医者から余命1年であることを宣告されてしまいます。
病状は徐々に進行しており、苦しみ抜いて死ぬくらいならその前に自ら命を断つため、自殺サイトを閲覧するようになります。
健康体である友也やあおいと違い、1年以内に死ぬことが約束されたより死に近い存在です。

上記の3人の他に、噂の幽霊である『サマーゴースト』佐藤絢音が登場し、物語は『死』を軸に展開されていきます。

不穏な設定からは想像できない爽やかな読後感

人間味溢れすぎる『サマーゴースト』、佐藤絢音

物語の序盤から登場する『サマーゴースト』佐藤絢音はとても人間味に溢れています。幽霊とは思えない言動を繰り返し、なんなら冗談すら口にするような性格。主人公である友也よりもよほど感情的で、彼女が清涼剤となり、重苦しい物語の息苦しさを軽減してくれています。
近所のお姉さんのような存在である佐藤絢音は3人の死の恐怖を取り除くだけでなく、読者を物語に没頭させてくれる重要なキーパーソンの役割も担っています。

線香花火×幽霊の抜群の相性の良さ

線香花火には儚げな雰囲気があり、幽霊には朧げな印象があります。この2つを組み合わせることによって、『サマーゴースト』はとても切なく美しい物語に仕上がっています。
『死』を軸に物語が肉付けされており、『死』の象徴でもある幽霊が物語を進めていきます。結末は決してハッピーエンドと言える内容ではなありません。それでも、クライマックスでは登場人物全員が救われているような印象を受けました。
重要なアイテムとして出てくる線香花火も舞台と上手くマッチしていて、文章全体を美しく奇麗に仕上げてくれています。

1枚の絵、『Summer Ghost』がきっかけで作られた物語

様々な展開がされている作品

小説『サマーゴースト』は、人気のイラストレーター『loundraw』が描いた1枚の絵、『Summer Ghost』が元となっています。
その作品をアニメ映画を作成するにあたり、脚本を乙一担当することになりました。そしてさらにノベライズ化、漫画化されていったのです。
漫画版に興味のある方は下記に購入するのに便利なURLを貼っておきますのでぜひ利用してみて下さい。

姉妹作『一ノ瀬ユウナが浮いている』

乙一は『サマーゴースト』の脚本を担当するにあたり、いくつか案を提出したそうです。その中の一つが今回紹介した『サマーゴースト』、そしてもう1つ、書籍化されることになったのが『一ノ瀬ユウナが浮いている』です。

この安達寛高は乙一のTwitterアカウント名で、書いた本人が姉妹作だと明言しています。

まとめ

  • 『サマーゴースト』は死の存在を軸に進む小説
  • 人間味溢れる幽霊や花火の儚さのおかげで爽やかな読後感がある
  • 1枚の絵、『Summer Ghost』が元になった作品で、姉妹作『一ノ瀬ユウナが浮いている』を含み様々な関連作品がある

久しぶりに乙一の新刊を読んでみたのですが、相変わらず美しい文章を書く人だな、と思いました。
綺麗で滑らかな物語で読む手が止まらなかったです。

今回のブログは以上です。
最後に、作品を購入するのに便利なURLを貼っておきますので興味のある方は活用してみて下さい。
当ブログを読んでいただいて、ありがとうございました。