どうも、僕です。
『兇人邸の殺人』、読みました。
いや~、物語の緻密さにすごく感心しました。
そして、それと同じくらい虚無感に襲われました。
登場人物たちの様々な思考や結末。
それらに想いを馳せるとどうにもやるせない気持ちになったのです。
そこで今回は、出来るだけ内容に触れないよう
僕の感想を書いていこうと思います。
レッツスタート。
登場人物と共に歩んだ読書体験

感情移入しやすい人物描写
当作品はミステリ物というだけあって
たくさんの登場人物が現れます。
その中で、数少ないレギュラーキャラクターである
探偵役の剣崎 比留子さん。
そして、ワトソン役の葉村 譲くん。
二人は今回も続投です。
冒頭のこの二人、もはや探偵と助手というよりは
長年連れ添った夫婦感すら漂っております。
比留子さんと葉村くんのやり取りを見ているだけで
ミステリーであるにもかかわらず
読者は安心感すら覚えることでしょう。
「一緒にそこへいる」感覚で読み進める
『剣崎 比留子シリーズ』と言えばクローズドサークル
言わば、脱出不可能な状況に陥るのがお約束。
今回もそのお約束は守られております。
脱出不可能な建築物。
そこに潜む強烈な殺意。
時間経過が遅く感じる閉塞感。
これらの要素が相まって
読み進めているとまるで自分も閉じ込められたような
息苦しさを感じるようになります。
彼らを理解させられる読者の心理
作者である今村昌弘の筆力が非常に高いので
物語が進んでいくと自然に登場人物たちの絶望、焦り、悲壮感が
文章と共に心に沁み込んできます。
その心の息苦しさたるや。
まるで溺れているような感覚でしたよ。
読書体験でこのような感想を抱けるのはかなり稀有なこと
空想の世界で、是非この以上体験を味わってほしいものです。
心が崩れていく場面に寄り添う苦しさ

怖いよりも、痛い
この物語のジャンルはミステリーであり
タイトルにもあるように、残念ながら殺人事件が起きてしまいます。
人が死ぬのはとても恐ろしいことですが
脱出不可能という舞台設定がより強く
感情に訴えかけてきます。
その感情は怖い、というよりは痛い、が近いでしょう。
目の前で極限の異常性が起き続けると
人間は感情が痛み変わるのだと実感できました。
期待していた希望がひとつずつ失われていく
『剣崎 比留子シリーズ』の良く出来ている点の一つが
希望と絶望が交互に押し寄せてくることです。
優秀な探偵である比留子さんは
なにか困難が起きるたびにそれに対して打開策を披露します。
それが読者に対しての『息継ぎ』の役割になります。
しかし、物語は非情です。
ページを捲るたびに、その希望は絶望に上書きされていきます。
状況がどんどん悪化していくのです。
なまじ、比留子さんが希望を用意してくれることが
より強い絶望の布石になってしまうのです。
希望が少しずつ摘み取られていくのは非常に苦しいのですが
物語が面白いのでページを捲る手が止まらないので
なんだか変な気持ちになりました。
犯人を理解しようとして拒絶する気持ち

理由を探そうとする自分への違和感
殺人事件が起きるということは
当然犯人が存在します。
説明するまでもなく殺人とは犯罪。
絶対だめ、殺人。
しかし、この物語が極上であるがゆえ
犯人には筆舌に尽くし難い動機が存在します。
いや、でも、やっぱ殺人はダメでしょう。
だって、舞台が日本である以上、設定上は法治国家の管轄内。
殺されてもいい人間なんて、存在しないのです。
それでも積極的に殺人事件に関与しようとする犯人。
犯人なりの事情があるわけですが……やはり歪んだ感情と言わざるを得ないでしょう。
納得できないのに受け止めざるを得ない
しかし、読者が納得しようがしまいが
物語には結末が用意されています。
本を読み進めていれば
いずれその結末にぶつかるしかないのです。
主観ですが、万人が納得できる結末は勧善懲悪
つまり、悪は滅びて正義が栄える、といった結末だと思います。
しかし、この結末は……。
とても、消化するのに時間がかかりそうな結末でした。
その行動に「正しさを与えたくない」と感じる
当作品の犯人ですが殺人を行うことだけが目的ではありません。
真の目的は他にあり、かなりトリッキーな動機で行動しております。
最終的にはその知性の高さから目標を達成しますし
色々な人の命を助けることにもなります。
けれど、他もやり方なかったのかなあ。
司法的には想像していたよりも重たい罪を犯したわけではありませんが
絶対に正義ではないよなあ。
強いて言うならば
犯人は自己満足するために行動していた
といった感じでしょうか。
犯人の過去や思いを想像すると
ものすごい喪失感に襲われてしまいます。
犯人も被害者だった
これが犯人に対する、個人的な印象です。
まとめ
- 比留子さんと葉村くんのコンビは健在
- 舞台環境であるクローズドサークルは極上の閉塞感を味わえる
- 目的を達成した犯人にやるせなさを覚える
以上が今回の感想です。
やっぱ、『剣崎 比留子シリーズ』は素晴らしいエンターテインメントですね。
一気に読み終えてしまいました。
しかも、物語の一番最後には分かりやすい
『To Be Continued』の存在が現れるし……。
文庫版がでたばかりだというのに
続きが気になって夜しか眠れません。
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