【乙一】小説の新刊が二か月連続で出版されたので読んでみた、その2
どうも、僕です。
読んだ書物の感想をダラダラ書いているので参考にしていただけると幸いです。
好きな作家さんである乙一の新刊が二か月連続で発売されました。
(2021年10月と11月)
前回にも書きましたがこれは本当に珍しいこと。
僕が知っている限り、今までこのようなことはありませんでした。
どちらかと言えば、乙一はじっくりと時間をかけて作品を書き上げるという印象があります。
だから、今回の二か月連続刊行はファンとしてとても嬉しいものでした。
それでは、前回紹介した『サマーゴースト』に続き、姉妹作品である『一ノ瀬ユウナが浮いている』の話をしてみます。
一ノ瀬ユウナは二つの意味で浮いていた
どうして一ノ瀬ユウナは浮かぶことになったの?
本編の主人公は遠藤大地というあまり特徴のない、どこにでもいる普通の男の子です。そして、一ノ瀬ユウナじゃ大地少年の幼馴染で、とてもマンガ好きの女の子でした。
漫画がきっかけで仲良くなった二人は自然体のまま良好な関係を築けていたのですが、思春期を迎えるころ、大地少年がユウナを異性として意識していることを自覚し始めます。
自分の気持ちを打ち明ける機会を窺っていた大地少年ですが、その機会はやってきませんでした。
なぜなら、ユウナは水難事故に遭い、水路の先の遊水地に水死体となって浮かんでいたからです。
大地少年にだけ見える浮かんでいるユウナ
ユウナが亡くなったことにより意気消沈していた大地少年は、ユウナを弔う気持ちでユウナの好きだった線香花火をすることにしました。すると、信じられないことがおきたのです。大地少年が線香花火をすると、ユウナが死んだ状態の姿で現れました。空中に現れたユウナはまるで水の中を漂うように浮かんでおり、ちゃんと意思疎通することが出来ました。
それ以来、彼女の好きだった花火をするときだけユウナは幽霊として現れるようになり、水死体として浮かんでいた彼女は幽霊として浮かぶことになりました。
タイムリミットは線香花火
ユウナが浮かんでいられる条件
いわゆる幽霊と呼ばれる状態になったユウナですが、彼女に自由はほとんどありません。この世の物理法則から解き放たれた代わりに干渉することも出来なくなっています。唯一彼女に触れられるのは大地少年だけであり、姿を現すのも特別な線香花火を灯した後だけです。それ以外の時間ユウナはこの世のどこにも存在せず、彼女の意識は眠っているような状態になります。
つまり、大地少年が線香花火を灯さなければ、ユウナは幽霊として存在することが出来ないのです。
二人の会える時間には限りがある
ユウナを幽霊として召喚するための重要アイテム線香花火ですが、特別な作りをしており既に生産は中止されていて大地少年の所有している線香花火には限りがあります。他の線香花火ではユウナが現れないため、自然と二人の会える時間には限りが設けられています。
途中、その制限時間に気がついた大地少年はユウナと会いたい思いを必死に抑え不必要な召喚を控えるようにしますが、その思いとは裏腹にユウナはこの世にあった未練を少しずつ解消していき、大地少年が掴んでいないと浮力で空に浮かんでいくようになってしまいます。
それでも大地少年はユウナの死をきちんと受け入れ切れることが出来ず、線香花火の数を節約してユウナとの別れを先延ばしするようになります。
線香花火の様に侘しく切ない物語
永遠に埋まらない二人の距離
ユウナと大地少年は幼馴染でありお互いに好意を抱き合っています。傍から見てそれは一目瞭然なのですが、当人同士は今の関係性が壊れることを恐れて行動を起こせずにいました。その関係は非常に甘酸っぱく、容易にハッピーエンドを想像出来てしまいます。
しかし、実際は既に書いてある通りユウナは死んでしまいます。しかも、二人の会える時間には限りが設けられてしまうのです。
この落差が、そのまま小説の切なさに還元されます。
物語序盤で二人にハッピーエンドが訪れないことは確定していますし、二人はお互い好き合っていたというのにその恋が実ることは絶対に起こりえません。
王道の恋愛小説から一気に裏返ることでこの物語は非常に切ない作りになっています。読んでいてユウナさえ生きていれば、という無念を感じずにはいられませんでした。
美しいだけでない巧みな構成
ミステリー小説をよく書いている乙一ですが、その技術は恋愛小説である本作にも活かされています。登場人物たちの個性を紹介するためのエピソードがそのまま伏線になっているのです。どうして大地少年は幽霊であるユウナを見ることが出来たのか、物語最後の場面がなぜ実現出来たのか、など必要な要素が冒頭で自然に書き込まれています。
それらの技術はとても巧みで高品質、読後に高い満足感を与えてくれます。だから、切なくなると分かっていてもついつい二回三回と読み直してしまう魅力が本作にはあるのです。
まとめ
- タイトルに嘘偽りなし。一ノ瀬ユウナはずっと浮かんでいる
- 線香花火はユウナと大地少年が会うための重要なアイテム
- 恋愛小説だがミステリー小説のような伏線があり、つい何回も見直してしまう作品
実は、明るく楽しい話が好きなので本作の切ない部分は読んでいて辛かったのですが、それでも美しい物語だったので最後まで読み終えました。切なくて美しい物語、大好きです。
今回のブログは以上です。
最後に、作品を購入するのに便利なURLを貼っておきますので興味のある方は活用してみて下さい。
当ブログを読んでいただいて、ありがとうございました。